あら、旦那、お待ちしておりましたよ。今夜は冷えますねぇ。ささ、こちらへお座りくださいな。お酒でもいただきながら、あちきのおしゃべりに付き合っておくんなさい。 ところで旦那、最近の江戸の男たちは、どうも健康というものにうるさくなりましてね。 この前も、あちきの住んでいる長屋の隣にいる熊五郎って男が、突然「これからは健康第一で暮らす!」なんて言い出したんですよ。 熊五郎といえば、朝から酒を飲み、昼にはそばを三杯食べ、夜は酒の肴に漬物をかじっているような男でありんす。 そんな男が、いったい何を始めたと思います? なんと、毎朝早起きして、日の出とともに散歩をするんですって。 あらまあ、立派な心がけじゃありませんか。 ところが三日目の朝、大家さんが熊五郎を探しているんですよ。 「おい、熊五郎を見なかったか?」 あちきが「朝の散歩に出かけましたよ」と答えると、大家さんが呆れた顔で言うんです。 「それがな、あいつ、散歩に出たまま帰ってこねえんだ」 どうしたのかと思ったら、熊五郎、散歩の途中で団子屋を見つけましてね。団子を食べて、茶屋で休み、帰り道にそば屋を見つけて、また腹ごしらえ。 結局、帰ってきたのは昼過ぎ。 しかも本人は胸を張って言うんですよ。 「いやぁ、今日はずいぶん歩いたぞ。健康になった気がする!」 あちきが聞いたんです。 「熊五郎さん、いったい何歩くらい歩いたんでありんす?」 すると熊五郎、真面目な顔で答えました。 「歩いた距離は分からねえが、団子は八本食った!」 まあ、健康のための散歩なのか、団子屋の売り上げに貢献するためなのか、さっぱり分かりませんねぇ。 さて、旦那。健康といえば、もうひとつ面白い話がありましてね。 近所のおかみさんが、亭主のいびきに困っているというんです。 夜になると、亭主が大きないびきをかくもんだから、家の中の猫まで驚いて逃げ出す始末。 そこでおかみさん、亭主に「少し痩せたらどうだい」と勧めたそうなんですよ。 ところが亭主は怒りましてね。 「俺のいびきは太っているからじゃねえ。立派な男の貫禄ってもんだ!」 あらあら、いびきにまで貫禄を持ち出すとは大したものでありんす。 その晩、おかみさんは亭主の枕元に猫を置いてみたそうです。 すると亭主のいびきが始まった途端、猫が飛び起きて、亭主の顔を前足でぺしぺし叩いたんですって。 翌朝、亭主は顔に引っかき傷を...