江戸のお座敷、芸者のおしゃべりでありんす あらあら、旦那、ようお越しくださいました。ささ、こちらへお座りなさいな。今夜はあちきが三味線を弾きながら、世にもくだらないお話を聞かせてあげますからね。 いやぁ、今日は朝から大変だったんですよ。長屋のおかみさんがね、「うちの亭主は本当に働かない」って、ぷんぷん怒っておりましてね。 聞けば、その亭主、朝起きて飯を食べ、昼までごろごろ、昼飯を食べてまたごろごろ。夕方になったら「いやぁ、今日も疲れた」なんて言うんですって。 あたしゃ思わず聞いちまいましたよ。 「おかみさん、その旦那、いったい何に疲れたんでありんす?」 そしたらね、「寝返りを打ちすぎて、布団がくたびれたんだよ!」ですって。 まあ、布団のほうが働いているとは、こりゃあ驚きでありんすねぇ。 ところで旦那、江戸の男ってのは、見栄っ張りが多いんですよ。 この間も、ある旦那があちきに言うんです。 「おい、芸者。わしは江戸一番の粋な男よ。金には困っておらん!」 あら、そりゃあ結構なことで。 ところが、その旦那が帰り際、財布を開けたら、出てきたのは小銭がたったの三文。 あたしゃ思わず三味線を止めてしまいましたよ。 「旦那、江戸一番の粋な男ってのは、財布まで身軽なんでありんすねぇ!」 そしたら旦那、顔を真っ赤にして言うんです。 「これは違う! 今日はたまたま財布を忘れたんだ!」 あらまあ。財布を忘れても見栄だけは忘れない。こいつぁ江戸の七不思議に加えてもよさそうでありんす。 さて、旦那。三味線というものは不思議なものでね。上手に弾けば人の心を浮き立たせますが、下手に弾けば犬まで逃げていく。 この前、あちきの知り合いが三味線の稽古を始めたんですよ。 ところが、どうにも音が外れる。 あまりの音に、隣の家の猫が飛び上がり、庭の鶏が昼間なのに鳴き出した。 しまいには大家さんが飛んできて、「おい、何事だ! 地震か、火事か!」と大騒ぎ。 知り合いが胸を張って言いました。 「いえ、三味線の稽古でございます!」 大家さん、しばらく黙ってから一言。 「頼むから、稽古は夜が明けてからにしてくれ!」 いやいや、もう昼だったんですけどねぇ。 どうやら音がひどすぎて、大家さんの頭の中では時間まで逆戻りしていたようでありんす。 ところで旦那、人間ってのは不思議なもので、食べる前は何でも食べられる気がするんです...