嫁いびりなんて、生ぬるい言葉で片付けられるようなことじゃなかったんです。
あれは、もう、一種の宗教儀式でした。義母が亡くなってから、義父との二人暮らしになったのですが、義父は元々、物静かで、どちらかというと気弱な人でした。
なのに、最近になって様子がおかしくなったんです。最初は、夜中に意味不明な独り言を呟くようになったくらい。でも、それが徐々にエスカレートしてきて。
ある晩、私はいつものように義父の部屋の前を通ったんです。すると、部屋の中から、何か硬いものを叩きつけるような音が聞こえてくる。
恐る恐るドアの隙間から覗くと、信じられない光景が広がっていました。義父が、仏壇の前に正座して、遺影の義母に向かって、般若のお面を被ったまま、何かを叩きつけているんです。
しかも、その手には、包丁が握られていました。仏壇のろうそくの灯りが、般若のお面の不気味な表情を一層際立たせていました。
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顔に塗られた白い絵の具のようなものが、血のように見えて、ゾッとしました。声も出せずに立ち尽くしていると、義父はゆっくりと顔をこちらに向けたんです。
般若のお面の奥で、義父の目が、ギラリと光ったような気がしました。それは、もう、私が知っている義父の目ではなかった。
まるで、何かに取り憑かれたような、冷たく、虚ろな目でした。そして、義父は、ゆっくりと立ち上がり、包丁を構えながら、私に向かって歩き出したんです。
その足音だけが、静まり返った家の中に響き渡って、まるで死刑執行の宣告のようでした。必死に部屋に駆け込み、ドアに鍵をかけました。背後から聞こえる、義父がドアを叩く音。鈍い、重い音。
そして、卑猥な言葉を叫ぶ義父の声。あの夜、私は、嫁いびりの果てに、認知症が豹変した義父の恐ろしさを、身をもって体験したのです。
あれから、義父の奇行は止まりません。時折、あの般若のお面を被って、私を睨みつけてくるんです。あの夜の悪夢が、今も私の心を蝕んでいます。
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