夜の帳が降りる繁華街の片隅、ひっそりとした喫茶店の一角に、三人の年配の男たちが腰を下ろしていた。カップに揺れるコーヒーの香りが漂う中、皆黙ったまま、どこか遠い記憶を見つめるような表情をしている。
「…おい、今さら引き返すか?」と一人が低い声でつぶやいた。三浦健一、75歳。かつて刑事として名を馳せた男だが、引退後の生活に退屈を覚え、昔の血が騒ぎ出した。彼の視線の先には、同じ年齢の藤原雅也と村上徹が、微かにうなずいている。
「俺たちが立ち上がらなきゃ、この街は腐っていくだけだ」藤原が続ける。「昔みたいに若くないさ。でも、歳を取った分、見えることもある」
三浦はため息をつき、窓の外を見つめる。かつての仲間たちが皆引退し、静かな余生を送っている中、彼ら三人だけが再び危険な道を選んだ。理由は一つ。悪の組織「蛇の目」がこの街を牛耳り始めたからだ。
「だが、簡単じゃない」村上が声を落とした。「蛇の目は昔のヤクザとは違う。連中はデジタルも駆使して、影の中から動く。俺たちの出番なんて、ないのかもしれない…」
「それでも、やらなきゃならん時があるんだよ」と三浦が静かに言った。「これはただの義務じゃない…そうだろ、雅也?」
藤原は苦笑いを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。「お前の言う通りだ、健一。これが最後の役目かもしれんが…一度やると決めた以上、全力で行くさ」
喫茶店の外、街灯が薄暗く照らす道に出ると、彼らの老いた体に少し寒さが染みる。それでも背筋を伸ばし、堂々と歩く姿には若かりし頃の威厳が残っていた。
***
翌朝、彼らは再び集結し、慎重に計画を練り直していた。蛇の目のアジトを突き止め、相手を追い詰めるための細かな準備だ。
「なあ、もし俺たちが帰ってこれなかったら…」村上がぽつりと漏らす。「…妻には、何て伝えればいい?」
「バカ野郎、そんなこと気にするな」三浦が一蹴する。「俺たちが戻ってくることを信じるんだよ。戦いに出るのに、心がぶれちゃダメだ」
藤原は黙って彼らのやり取りを見つめ、しばらくして口を開いた。「それでも、心のどこかで覚悟しておくべきかもしれない。何があっても驚かないように」
少しの沈黙が流れる。だが、その沈黙の中に、彼らの長年の友情があり、互いに信頼し合う気持ちが宿っていた。
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アジトへ向かう道中、彼らはそれぞれの覚悟を胸に刻みながら歩みを進める。藤原がつぶやくように言った。「この歳になって、またこんな緊張感を味わうとはな」
三浦は笑みを浮かべ、「それも悪くないだろう?」と応じる。「生きてるって感じがするじゃないか」
村上もまた、その言葉に小さくうなずく。「そうだな…でも、できればもう少し楽な人生を送りたかったよ。年金暮らしでのんびりしてる仲間が羨ましい」
それぞれが胸に抱えた思いを語り合う中、徐々にアジトが見えてくる。男たちの表情は、険しさとともにどこか清々しい決意で満ちていた。
「よし、行こう」三浦が低く号令をかけた。「俺たち、ハードボイルドGメン75歳、最後の務めを果たすんだ」
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彼らがアジトに踏み込むと、若手の組員たちが驚愕の表情を浮かべて迎える。老いた体ではあるが、彼らの鋭い眼差しは昔のままだ。
「爺さんだろうが何だろうが、俺たちは負ける気はねえ!」と三浦が叫ぶ。若者たちが襲い掛かるが、三人は絶妙なコンビネーションで応戦し、次々と相手を制圧していく。
老体に鞭打ちながらも、かつての勘と経験で一歩も引かない彼ら。敵がどれだけ迫ろうと、彼らの覚悟と信念は揺らがない。
やがてすべてが終わり、アジトの奥深くで息を切らす三人。三浦がぽつりとつぶやく。「これで、街も少しは安全になるだろうな」
藤原は肩を叩き合い、微笑む。「ああ、75歳にして最高の仕事だったよ」
村上も小さくうなずき、また、彼らは静かに街の闇に消えていった。
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