「池上彰みたいなこと言うね」
誰かと話しているとき、難しいニュースや社会の仕組みをわかりやすく説明すると、こんなふうに言われることがある。
これは単なる冗談ではない。実は、この言葉の裏には、相手があなたに感じている意外な評価が隠れている。
それは、物事を知っていることと、物事をわかりやすく説明できることは、まったく別の能力だということだ。
例えば、物価が上がっている理由を考えてみよう。
「円安だから」「原材料が高くなったから」「世界情勢が不安定だから」。
こうした説明は間違いではない。しかし、これだけでは、なぜ自分の生活が苦しくなるのか、十分に理解できない人もいる。
そこで、こんなふうに説明してみる。
「日本が外国から買っている小麦や石油の値段が上がると、パンを作る工場も、商品を運ぶトラックも、お金が余計にかかるようになる。その負担が、少しずつ商品の値段に反映されていくんだよ」
すると、経済の専門知識がない人でも、物価上昇と自分の生活とのつながりが見えてくる。
つまり、わかりやすい説明とは、難しい言葉を簡単な言葉に置き換えるだけではない。バラバラに見える情報をつなぎ、相手が理解できる順番に並べ直すことなのだ。
ここで、もうひとつ面白い話がある。
人間には、自分が理解していないことでも、理解したつもりになってしまう傾向がある。
例えば、「日本の景気が悪いのは政治が悪いからだ」と言うのは簡単だ。しかし、実際には人口構造、賃金、企業の投資、海外経済、消費者心理など、さまざまな要因が絡み合っている。
ひとつの原因だけで説明できる問題は、意外と少ない。
だからこそ、本当に物事を理解している人は、簡単に断言しない。
「こういう理由が考えられる。ただし、別の要因もある」
そんな言い方ができる人は、単に知識が豊富なだけでなく、物事の複雑さも理解している可能性が高い。
もちろん、何でも曖昧に話せばいいというわけではない。確かな事実と、自分の推測や意見を区別することが大切なのだ。
では、私たちが日常生活で、この能力を身につけるにはどうすればいいのだろうか。
おすすめなのは、ニュースを見たあとに「つまり、どういうことなのか?」と自分に問いかける習慣だ。
そして、専門知識のない人にも説明できるかどうかを考えてみる。
うまく説明できなければ、まだ理解が不十分なのかもしれない。もう一度調べ、情報を整理する。その繰り返しで、知識は単なる情報から、自分の使える知恵へと変わっていく。
さらに、この能力は仕事や人間関係でも役に立つ。
難しい話をわかりやすく伝えられる人は、会議でも信頼されやすい。相手の疑問を整理できる人は、相談相手としても頼られる。
ただし、知識をひけらかしたり、相手を論破したりすることとは違う。相手が理解できるように伝えることが目的なのだ。
そして、最も大切なのは、わかりやすく説明できる人ほど、相手を見下さないということかもしれない。
知らないことは、恥ずかしいことではない。誰だって、最初は何も知らなかったのだから。
「池上彰みたいなこと言うね」と言われたら、それは知識を披露したことへの評価だけではなく、相手に理解してもらう伝え方ができたということかもしれない。
世の中には、知識が豊富な人も、話がうまい人もたくさんいる。
しかし、難しいことを理解し、それを誰にでも伝わる言葉に変えられる人は、そう多くない。
だから、これから何かを学んだときは、知識を増やすだけで満足しないでほしい。
「これを知らない人に説明するなら、どう話せばいいだろう?」
そう考えるだけで、学び方も、話し方も、少しずつ変わっていくはずだ。
知識を持っている人より、知識を人の役に立てられる人のほうが、人生では強い。
そんなことを意識してみると、いつものニュースや何気ない会話も、今までとは少し違って見えてくるかもしれない。
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