ねぇ、ちょっと聞いてくれる?
私、いまさらながら…“元旦那”と会ってるの。
しかも、夜だけ。――秘密で、こっそりと。
え?驚いた?
でも…私たち、昔は本当に愛し合ってたのよ?
喧嘩別れってわけじゃなかったの。すれ違いとか…お互いの生活の変化とか、そういう曖昧な理由で、ただ、離れていっただけ。
でもね、別れてから気づくことってあるのよ。
この歳になると、もう“恋”なんてしないと思ってたの。
でも…女って不思議ね。肌が寂しくなると、心まで揺れてくる。
あの人――元夫とは、偶然、近所のスーパーで再会したの。
「変わってないな」なんて、お世辞みたいなこと言われて、最初は苦笑いだけだったけど、
…心の奥が、ふっと、熱くなるのを感じたの。
あの頃に戻ったような気がして――
それから、何度か、連絡をとるようになって。
はじめはお茶だけ、次は夕食、…そしてある晩、彼が私の手をそっと握ってきたの。
「…戻るのも、アリかもしれないな」って、呟いた彼の声。
私、笑って誤魔化したけど、心は正直だった。
正直に言うと、あの夜、帰りたくなかった。
そのまま彼の部屋で、抱かれたかった。
でも私…そんなに軽くは見られたくなかったから、
「…またね」って、背中を向けたの。
…でもね、女って、やっぱりズルい生き物だわ。
数日後の夜、私から連絡してしまったの。
「会いたい」って。
そして、彼の部屋のドアをくぐった瞬間から…女としての私は戻ってきたの。
ねぇ、知ってる?
40代50代になっても…いえ、だからこそ、
人肌のぬくもりって、心に染みるのよ。
あの人の手のひらの温度、背中に回される腕の重さ、
そして…唇が触れ合うたびに思い出すの。
私たちは、あの頃よりも――もっと深く愛し合ってるかもしれないって。
でもね、これは“秘密”なの。
誰にも言えない。
だって、あの人、今はもう別の女性と付き合ってる。
私は、ただの“元妻”でしかないはずだったのに。
なのに…夜の闇に紛れて、こうして何度も会ってる。
彼のベッドで、私は裸のまま、彼の胸に顔をうずめながら、
「また来てもいい?」って聞いてしまう。
バカでしょ?
わかってる。わかってるの。
こんなの、不毛な関係だって。
でも、女は“肌”が覚えてるの。
声も、触れ方も、…あの時の愛も。
ねぇ、あなたならどうする?
もし、元奥さんが、ふとした拍子に現れて、
昔のように甘えてきたら――拒める?
私は、もう戻れないってわかってる。
でも、心のどこかで、こうして求められている実感が、
まだ女でいられるって証になってるの。
秘密の関係。
罪悪感と背徳の香り。
そのすべてが、私を刺激してくる。
ねぇ…これって、恋なのかしら?
それともただの、寂しさに踊らされてるだけ?
…でもね、女って、答えなんかよりも――
その瞬間に感じる“抱かれている”という実感が、
すべてなのよ。
明日の朝には、何事もなかった顔で、
仕事に行って、レジで笑って、
「最近お肌の調子いいですね」なんて言われて…
内心、ドキッとしてるの。
それはたぶん――
昨夜、私が“女”に戻れた証拠なのかもしれないわ。
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