「ねぇ、今日も来てくれたんですね。嬉しいです」
そう言って微笑んだのは、婚活支援サークルで出会った美緒さんだ。
年下というほど若くもないが、僕よりはだいぶ若い。
そのせいだろうか。彼女の笑顔を見るたび、胸の奥がざわつく。
「なんか…緊張してる?」
「えっ、いや…少しだけ」
「ふふ。正直でいいですね」
彼女は僕の隣に腰を下ろし、わずかに距離を詰めた。
その瞬間、ふわりと香りが漂った。柔らかくて落ち着く…なのに、どこか甘い、女性の気配を含んだ香り。
──あぁ、この感覚。
若い頃、好きだった子の髪に顔を寄せたときに感じたような…
忘れていたはずの、ときめき。
「大丈夫? なんだか表情が変わりましたよ」
「いや、なんでも…その、いい香りだなって思って」
「えっ…わ、私の…ですか?」
「うん。なんだか…懐かしくなる」
彼女は顔を赤らめ、視線をそらした。
その姿が、また胸に火をつける。
「そんなふうに言われたの、久しぶりです。嬉しい…」
「僕も、こんな気持ちになるとは思ってなかったよ」
「どんな気持ち?」
「……若返ったみたいだ」
自分で言って照れてしまう。
けれど美緒さんは静かに笑い、僕の手の近くにそっと自分の手を置いた。
触れてはいない。でも、触れそうで、触れない。
この、わずか数センチの距離がたまらなかった。
「私もね…あなたと話すと、落ち着くんです。
なんていうか…安心して、本当の自分でいられる感じ」
彼女はゆっくりと顔を上げ、僕を見つめた。
その瞳は、まるで何かを確かめるように揺れている。
「もし…嫌じゃなかったら、もう少し近くにいてもいい?」
「もちろん。嫌なわけないよ」
「よかった…」
ほんの少し、彼女が体を寄せる。
さっきよりも濃く、香りが触れる。
それだけで、胸の鼓動が若い頃に戻っていく。
「ねぇ…手、繋いでもいいですか?」
「…うん」
彼女の手が触れた瞬間、
温もりが、心の奥の埃を一気に吹き払っていくようだった。
「あなたのその優しさ、もっと知りたい…」
「僕も。君のこと、もっと知りたくなってる」
静かなホールの中で、ふたりの会話だけが小さく響く。
その香りは、確かに僕の中の“忘れていた若さ”を呼び覚ましていた。
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