40年ぶりに開催された同窓会に、俺はどこか気が進まない気持ちを抱えながら足を運んだ。還暦を過ぎた俺にとって、昔の仲間と顔を合わせることは、楽しみよりも気恥ずかしさのほうが勝る。それでも、妻に背中を押されて参加することにしたのだ。
会場は老舗のホテルの宴会場。久しぶりに見る懐かしい顔ぶれに、あの頃の思い出が次々と蘇ってくる。俺はビールを手に取り、なんとなく周りを見渡した。そこにいたのは、変わらぬ優しい笑顔の彼女だった。
「高橋君?」
声をかけてきたのは、初恋の人、田中玲子だ。彼女もまた、年月を重ねた風貌ながら、あの頃の面影をしっかりと残している。
「玲子…さん?久しぶりだなぁ。」
ぎこちない返事をしてしまったが、彼女はにっこりと微笑んでくれた。その笑顔に、胸の奥にしまい込んでいた淡い想いが蘇る。
「懐かしいわね。こんなに時間が経ったなんて信じられない。」
玲子の言葉に頷きながら、俺たちは隅の席に腰を下ろした。昔話に花が咲き、学生時代の思い出や、その後の人生について語り合う。気づけば、周りの喧騒は遠のき、俺たちだけの世界が広がっていた。
「お互い、いろんなことがあったわね。」
玲子がぽつりとつぶやく。俺もまた、人生の酸いも甘いも経験してきた。その中で、彼女との再会は、まるで失ったピースを見つけたような感覚だった。
「玲子さん、あの頃、俺は君のことが好きだったんだ。」
不意に口をついて出た言葉。玲子は驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「知ってたわよ。でも、私も同じ気持ちだったのよ。」
静かな告白に、胸が熱くなる。お互いに想いを抱えたまま、別々の道を歩んできた俺たち。その道が今、再び交わろうとしている。
「もし、今度は…失いたくないんだ。」
俺の言葉に、玲子はそっと手を握ってくれた。その温もりが、心に染み入る。
「私もよ。今度は一緒に歩いていきたい。」
その夜、俺たちは長い年月を経て初めて本当の気持ちを伝え合った。再び巡り会えた奇跡に感謝しながら、俺たちは新しい未来を見据えて歩き始めたのだった。
四十年ぶりに再会した初恋の人と、二人きりになった夜。ホテルのラウンジでグラスを傾けながら、思い出話に花が咲く。あの頃は言えなかった想い、伝えられなかった言葉が、ワインの香りとともに心の奥からこぼれ落ちる。
「こんなふうにまた話せるなんて、夢みたいだな」
「ほんとに……まさか、あなたが来てくれるなんて思わなかった」
視線が絡む。若かりし頃とは違う、深みを増した瞳。年月を重ねても変わらない微笑み。心の奥にしまい込んでいた気持ちが、ゆっくりと溶け出す。
気づけば、手が触れ合っていた。昔のように無邪気に触れるのではなく、確かめるように、そっと。ためらいがちに指を重ねると、相手も応えるように握り返してくる。
「この手……変わらないね」
「そう? しわだらけになったわ」
「いや、温かい。あの頃と同じだ」
静かに流れる時間。心の中で何かが確信に変わる。この再会は偶然ではないのかもしれない。
「このまま、もう少しだけ一緒にいられないかな」
誘うような囁き。互いの鼓動が響き合う。夜はまだ、始まったばかりだった。
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