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怪奇事件捜査|湿った畳の上で聞こえたのは、夫ではない足音


 雨のにおいが部屋に染みついて、畳がじっとりと湿っていた。
「また梅雨ね……嫌になっちゃう」そう独り言を漏らしながら、私は夜の寝室で扇風機を弱く回した。

https://youtu.be/AF4OtFtmUpo


 夫は今夜も出張。もう慣れたはずなのに、どういうわけか今日は妙に胸がざわつく。
 その理由はわからない。ただ、湿り気を帯びた空気が、肌を優しく撫でてくるような気がした。

 ――パサッ。

 その時だった。障子の向こうで、誰かの衣擦れの音がした。
「……あなた? もう帰ってきたの?」
返事はない。けれど、気配だけは確かにある。

 私はそっと布団を抜け出し、畳に足を下ろす。ひんやりとした感触が、ふくらはぎをじわりと冷やした。

 ――ギッ……ギッ。

 足音。明らかに、夫より軽く、そしてゆっくりと近づいてくる足音。
「ちょっと……誰なのよ。やめてよ、怖いじゃない……」
そう言いながらも、私はなぜか逃げなかった。むしろ、胸の奥のざわつきは次第に甘い熱へと変わっていく。

 障子が、すうっと揺れた。
「ねぇ……そこにいるの?」
返事の代わりに、そよ風のような気配が肩に触れた。
ひっ、と小さく声が漏れた。でも、それは痛みでも恐怖でもない。“懐かしい”感触だった。

「……あなたじゃないわよね。わかってる。でも……どうして?」

 まるで問いかけに応えるように、気配が背中へ回り込む。湿った畳を踏む音が、耳元でするほど近い。
 私は身体を固くしたまま、目を閉じた。
 すると、誰かの指先のようなものが、そっと腰へ触れた。空気より軽くて、それでいて確かな“手”。

「だめ……そんな触り方……」

 誰もいないはずの部屋で、私は声を漏らしていた。
 夫にもこんなふうに触れられたのは、いつ以来だろう。
 寂しさと、女性としての焦がれるような感情。そのどちらも、気配は見透かしているかのようだった。

 ――トン。

 軽い音が足元でした。見れば、畳に小さな水滴が落ちている。
 あれ? と息が詰まり、顔を上げた瞬間、気配がすっと消えた。

「……どこ行ったの? まだ……」

 手を伸ばしても、もう何も触れられない。
 けれど、湿った畳には確かに“足跡”が二つ残っていた。私のものと、もうひとつ、夫ではない誰かのもの。

「……ねぇ、また来るの? 私……待ってるかもしれないわよ」

 そう言った自分の声が、妙に艶っぽく響いた。
 風が、返事の代わりに障子を揺らした。



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