色褪せた特撮ヒーローのソフビ人形が、西日を浴びてショーウィンドウに長い影を落としている。
入り口のガラス戸に貼られた「ミニ四駆コースあります」の手書きポップは、もう何年も前からセロハンテープが茶色く変色したままだ。
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| おもちゃ屋ケンちゃん |
俺の名前はケンイチ。今年で59歳になる。
かつて、このアーケード街が子どもたちの歓声で揺れていた昭和の終わり。学校が終わるや否や、ランドセルを放り投げた小僧たちが小銭を握りしめて駆け込んでくるこの店で、俺は「おもちゃ屋のケンちゃん」として彼らのガキ大将であり、夢の案内人だった。
天井近くの棚に鎮座する重たい合金ロボットや、大きくて手が出ないラジコンカー。あの頃、町のおもちゃ屋は子どもたちにとって、間違いなく光り輝く宝の山だったのだ。
だが、時代は静かに、そして残酷に変わった。
子どもたちの遊び場は路地裏や空き地から、薄いタブレットの液晶画面の中へと移り変わった。欲しがるものはデジタルデータになり、物理的なおもちゃを買うにしても、親は郊外の巨大な家電量販店か、ネット通販の「カートに入れる」ボタンひとつで済ませてしまう。
町の小さなおもちゃ屋が定価で商品を並べ、子どもたちの小遣いを待つ商売など、とうの昔に成り立たなくなっていた。
今朝、長年付き合いのあった地元の問屋から、ついに取引の停止を告げられた。
「ケンさん、うちももう限界なんだ。申し訳ない」
電話越しの沈痛な声に、俺はただ「今までありがとうな」と返すことしかできなかった。来月の店舗の家賃も、業者への支払いも、もうどこを叩いても出てこない。
倒産だ。
親父から継いだこの「おもちゃのケン」のシャッターを、ついに俺の手で下ろす時が来た。
薄暗い店内で、日焼けして色が抜けたプラモデルの箱をそっと撫でる。
子どもたちに夢を売るのが仕事だった。けれど、俺自身が時代の波に飲まれ、ここで夢を見続けることができなくなってしまった。
「親父、ごめんな。子どもたちの笑顔、俺の代で終わっちまったよ」
誰もいない店内で呟いた言葉は、棚に並ぶブリキの車に吸い込まれるように消えた。
それでも、俺はレジ裏に置いてあった毛ばたきを手に取り、一つひとつの箱に積もった埃を丁寧に払い始めた。
あと半月。不渡りを出して完全にシャッターを下ろすその日まで、ここは夢を売る場所でなければならない。外箱が煤けていようと、中身の魔法まで色褪せさせてはいけないのだから。
ガラガラッ。
軋む引き戸の音が響き、夕暮れの光と共に小さな影が二つ入ってきた。
「おじちゃん、これと同じプラモ、まだある?」
おずおずと尋ねる少年の手には、すっかりボロボロになった箱の切れ端が握られていた。後ろには、申し訳なさそうに微笑む母親が立っている。
俺は毛ばたきを置き、エプロンで手を拭いながら、とびきりの笑顔を作った。
「あるとも! おもちゃ屋ケンちゃんを甘く見ちゃいけないぜ!」
夢の終わりがすぐそこまで迫っていても。
俺は最後の日まで、子どもたちのための「ケンちゃん」であり続ける。
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