深夜の国会議事堂。
女性議員・神崎怜子は、誰もいないはずの廊下を足早に歩いていた。彼女が提出した「スパイ防止法案」は、国を揺るがす機密を暴く内容だった。だが、法案が通れば消える人々がいる。だからこそ、彼女の動きを誰かが常に監視していた。
議員控室に入ると、机の上に一通の封筒。差出人なし。中には――自分の演説草稿、そして血で書かれた一文があった。
「あなたは、もう喋りすぎた。」
怜子は震える手で封筒を落とした。携帯を取ろうとした瞬間、画面が光り、知らない番号から着信。
「怜子議員、あなたの法案は素晴らしい。ただし……生きて通せればの話だ。」
その声は、先日笑顔で握手した同僚の女性議員のものだった。怜子の背筋が凍る。議事堂の照明が一瞬だけ落ち、モニターに映るのは監視カメラの映像。そこには、今まさに怜子の部屋に向かって歩く黒いスーツの影。
彼女は急いで非常口へ向かった。だが、ドアノブには既に指紋認証が仕掛けられている。
「……まさか、政府そのものが敵?」
遠くで警報が鳴り響いた。
国を守る法案を出したはずの彼女が、いま“国”に狙われている。
翌朝、ニュースはこう伝えた。
――神崎怜子議員、失踪。提出予定だった「スパイ防止法案」も、議事録から完全に消去された。
だが、議事堂のどこかで誰かが囁く。
「彼女はまだ喋っている、地下で――」
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