夜の帳が静かに降りる。時計の針は午後十一時を指していた。
リビングの間接照明がぼんやりとした陰影を作り出し、壁に揺れる影が私の鼓動を映し出しているようだった。
ガラスのグラスに注いだ白ワインを揺らしながら、私はゆっくりと息を吐く。旦那は出張中この静かな時間は、私だけのもの。
「……遅いわね。」
ぽつりと呟いた言葉は、誰に向けたものなのか。自分でもわからない。スマートフォンの画面をちらりと確認するが、新しいメッセージは届いていない。けれど、不安はない。彼は必ず来る。いつものように。
ソファに腰掛け、スリップドレスの裾を指でなぞる。柔らかなシルクが肌に吸い付くようで、無意識に脚を組み替えた。ふと、窓の外を見る。夜の闇が一層深くなり、遠くの街灯がぽつんと寂しげに光っている。
コン、コン。
控えめなノックの音に、胸が高鳴る。
「……来た。」
グラスをそっとテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がる。深呼吸をひとつ。そして、ドアへと向かう足取りは、驚くほど自然だった。
ドアノブに触れ、静かに開く。
そこに立っていたのは
「待たせた?」
低く、落ち着いた声。けれど、その奥に潜む熱が、私の心をさらに揺さぶる。
「……いいえ。」
微笑んで、手を伸ばす。彼の手が私の頬に触れた瞬間、すべての躊躇いが溶けていく。
旦那の知らない夜が、始まる。
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