夫を亡くして、もう三年が経つ。
最初の一年は、ただ毎日をこなすだけで精一杯だった。二年目は、ふと気がつくと夫の面影を探している自分に気づいた。そして三年目の今、私はようやく「女」としての自分を意識するようになってしまった。
そんな自分が怖かった。女であることを忘れていたはずなのに??いや、忘れたふりをしていただけなのかもしれない。誰かに触れられたい、求められたい。そんな気持ちを持つことが、亡き夫を裏切ることのように思えて、ずっと蓋をしてきた。
それなのに。
ある夜、彼の手が私の肩に触れたとき、私は抗うことができなかった。
彼??夫の後輩だった佐々木くんは、よく家のことを気にかけてくれていた。夫がいた頃からの付き合いで、彼は家族のような存在だった。気さくで優しくて、でもどこか寂しげな目をしている。
「もう、無理しなくていいんですよ」
そう囁かれたとき、涙が溢れた。私がどれほど寂しさを抱えて生きてきたか、彼は気づいていたのだろうか。
彼の指がそっと私の頬をなぞる。その指先の温かさに、久しく感じたことのない震えが走る。私は知らず知らずのうちに、彼の胸へと顔を埋めていた。
「……寂しいんです」
それが、私の精一杯の告白だった。
彼は何も言わず、ただそっと私を抱きしめた。そして、私は抗わなかった。唇が重なる瞬間、心の中で夫の名前を呼んだ。許して、と。
だけど、もう戻れない。
求めるほどに、私の中で何かが目覚めていく。寂しさを埋めるだけじゃない、熱を帯びた感情が溢れ出してくる。ずっと忘れていた、女としての悦び。
夜は、深く、長く??静かに更けていった。
翌朝、微かな陽の光がカーテンの隙間から差し込む。隣で眠る佐々木くんの寝息を聞きながら、私は天井を見つめていた。
罪悪感はない、と言えば嘘になる。でも、それ以上に満たされた気持ちが胸の奥に広がっている。温もりを知った肌は、もう以前の私には戻れないのかもしれない。
そっと彼の頬に触れると、佐々木くんがゆっくりと目を開けた。
「……おはようございます」
低く甘い声に、心がざわめく。
「おはよう……」
私の返事に、彼は微笑んだ。昨夜の余韻がまだそこに残っている。
「……後悔、してませんか?」
静かに問われる。
私は少しだけ躊躇い、それから小さく首を振った。
「……してないわ」
その言葉を聞いた瞬間、彼は安心したように私を引き寄せた。
夫を失って以来、ずっと冷え切っていた心と身体。けれど今、確かに温もりがある。
私はもう、寂しさに負けない。
そう、思いたかった。
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