皆さん、こんばんは。今宵も、決して一人では聞かないでいただきたい、背筋が凍るような奇妙な話をお届けします。
今回の舞台は、日本の政治の中枢、国会議事堂。昼間は活気にあふれ、希望に満ちた議論が交わされる場所ですが、夜になると一変、そこには常識では考えられない怪奇現象が潜んでいるのです……。
ある夜、正義感に燃える新人議員の佐藤は、法案の修正作業に没頭し、残業で遅くまで議事堂に残っていました。人気のない廊下を歩いていると、ふと、微かに、しかし確かに、奇妙な話し声が聞こえてきたのです。
「……未来を、変えなければ……ならない……」
好奇心を抑えきれず、声のする方へ足を進めると、薄暗く、ひっそりとした一室にたどり着きました。そこには、現代の技術では考えられない、古めかしい機械が置かれており、その前に、どこかで見覚えのある、ただならぬ雰囲気の男が立っていたのです。
「あなたは……一体、何者ですか?」
佐藤が意を決して声をかけると、男はゆっくりと、まるでスローモーションのように振り返りました。その顔を見た瞬間、佐藤は息を呑みました。なんと、その男は、連日テレビで見慣れた、政界の大物、田中角栄その人だったのです。
「田中先生、こんな時間に、一体ここで何をされているんですか?」
しかし、田中の様子は、いつもの威厳に満ちた姿とはかけ離れていました。目は虚ろで、生気がなく、顔色は土気色で、まるで別人かのように見えました。
「私は……未来から、やって来たんだ」
田中の信じられない言葉に、佐藤は思わず耳を疑いました。「未来から? そんな、SF映画のような話……」
田中は、おもむろに機械に手を触れ、重々しい口調で語り始めました。「未来は、絶望に満ちている。このまま、何も手を打たなければ、日本は必ず滅びる……。だから、私は禁断の手段を使って、過去に戻り、歴史の流れを変えなければならないのだ」
佐藤は、最初はただの冗談か、あるいは疲労による幻聴だと思っていました。しかし、田中の尋常ではない、鬼気迫る表情に、ただ事ではない、尋常ならざる事態が起こっていることを悟りました。
「一体、未来で何があったんですか? 何が先生をそこまで駆り立てるんですか……」
田中は、苦悶の表情を浮かべながら、言葉を絞り出すように、未来の日本の悲惨な姿を語り始めました。酸性雨が降り注ぎ、汚染された大地、満足に食料も手に入らず、飢餓に苦しむ人々、そして、私利私欲に走り、国民を顧みない政治家たちの腐敗……。
「私が……間違ってしまったんだ……。あの時、ほんの少しでも、正しい選択をしていれば……」
田中は、過去の自分の誤った判断を激しく後悔し、未来の惨状を食い止めるため、最後の望みを託し、この時代にタイムスリップしてきたというのです。
佐藤は、田中の衝撃的な告白に言葉を失いました。しかし、同時に、様々な疑問が頭の中を駆け巡りました。「本当に、過去を変えることなどできるのだろうか? それに、未来を変えることが、本当に、本当に正しいことなのだろうか……?」
その時、突然、部屋の電気が全て消え、建物を揺るがすような、激しい地響きが起こりました。
「まずい、時間管理局の追っ手が来た! 奴らに見つかれば、私も、そしてお前も、ただでは済まない!」
田中は、血相を変え、焦った様子で機械の複雑なパネルを操作し始めました。「早く、ここから逃げろ! 一刻も早く、この議事堂から出るんだ! お前も、この争いに巻き込まれるぞ!」
何が起こっているのか、事態を飲み込めない佐藤でしたが、田中のただならぬ様子に危険を感じ、言われるがままに部屋から飛び出しました。背後では、機械が激しく火花を散らし、空間を歪ませるような、異様な光を放っていました。
佐藤が恐る恐る振り返ると、先程まで機械があった部屋は、跡形もなく消え去っており、そこには、ただの古びた壁があるだけでした。
翌日、佐藤は、昨夜の出来事を誰にも打ち明けることができませんでした。しかし、未来から来た田中が語った言葉は、まるで悪夢のように、彼の心に深く、深く刻み込まれていました。
「速報です。本日未明、田中角栄議員が、体調不良を理由に、突如、議員辞職を表明しました……」
テレビからは、田中の突然の辞職を伝えるニュースが流れてきました。佐藤は、画面に映る田中の顔を食い入るように見つめながら、昨夜の出来事が、現実だったのか、それとも、全ては悪夢だったのか、わからなくなっていました。
しかし、一つだけ確かなことは、佐藤の胸の中に、未来を変えなければならない、という強い使命感が静かに芽生えたということです。
この怪奇事件の後、佐藤は、国民のために、そして未来のために、一人の政治家として、全力を尽くすことを固く誓ったのです。そして、いつか、未来から来た田中が語った言葉の、本当の意味を理解する日が来るのかもしれません……。
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