――あの夜、彼は確かに息を引き取った。
冷たくなったその手を、私は離せなかった。
「お願い、戻ってきて…」
涙と血が混ざる中、私の唇が彼に触れた瞬間、
かすかな息が、蘇った。
でも、それは“彼”ではなかった。
瞳の奥に宿るのは、愛ではなく、飢え。
私の香りに反応し、震える指が、頬をなぞる。
あの優しい手つきのまま、けれどその爪は、皮膚を裂いた。
それでも私は逃げられなかった。
腐りゆく彼の体に腕を回し、
「大丈夫、わたし、ここにいる」
そう囁いた。
――愛は、どこまで許されるのだろう。
温もりのない抱擁の中で、私は悟った。
生きることより、一緒に朽ちるほうが幸せだと。
夜明け前、静かに唇を重ねる。
血の味がした。
それでも、私は微笑んだ。
「これでやっと、一つになれたね。」
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