その夜、永田町の議員宿舎で、ひとりの女性政治家が忽然と姿を消した。
彼女は「女性の声を国会に」と訴え続け、清廉潔白を誇る人気議員だった。だが、部屋に残されていたのは、作動しっぱなしのICレコーダーと、異様な低い声だけ。
――「あんた、誰?」
再生ボタンを押すたび、周囲の音がひとつずつ消えていく。議事堂の時計の音も、記者の足音も、やがて記録を聴いた者自身の呼吸音までも。
翌朝、机の上に置かれた封筒には、彼女のサイン入りの辞職届と、「見た。聞いた。だから、もう喋れない」と震える文字。
その日を境に、政界では“深夜に電話が鳴る”という噂が囁かれた。番号表示は常に同じ――彼女が最後に使った公用携帯の番号だという。
真実を知る者は、もうこの世にいない。
そして今夜も、議員宿舎のひと部屋だけ、誰もいないはずの窓明かりが灯る。
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