これは、昭和の終わりごろに起きた――実際の未解決事件である。
深夜0時すぎ、都内郊外の古い団地。
監視カメラには、黒いストッキングを穿いた中年女性が、ゆっくりと廊下を歩く姿が映っていた。
スーツ姿、ヒールの音、そして、手には小さな紙袋。
だが――彼女が廊下の角を曲がった瞬間、映像は途切れた。
翌朝、その部屋の住人である男性が、浴室で倒れているのが発見された。
死因は不明。
争った形跡もなく、ただ鏡の前に残されていたのは……真っ赤な口紅の跡と、黒いストッキングの片方。
団地の住人は言う。
「あの人、亡くなった奥さんにそっくりだったんですよ。夜になると…笑い声が聞こえるって」
警察は不審者の侵入を疑ったが、鍵は内側から閉まっていた。
監視カメラの映像を解析したところ、不可解な点がひとつ見つかった。
――その“黒いストッキングの女”の足、影がなかったのだ。
近所の人たちは今も噂する。
あの廊下を歩くと、ヒールの音が背後からついてくる。
振り向くと、誰もいない。
ただ、焦げたような香水の匂いと、薄く赤い口紅の跡だけが残る。
ある住人が語った。
「夜中に廊下を歩くとね、鏡の窓に女の脚が映るんですよ。自分のじゃない、もっと長い脚が」
事件は今も未解決のまま。
黒いストッキングの女は、いったい誰だったのか。
亡き妻なのか、それとも――
団地に棲みついた“何か”だったのか。
あなたの家の廊下でも、今夜……ヒールの音が、響くかもしれない。
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